最初はさほど印象に残らなかった同僚や、同じ勉強会に何度も顔を出すうちに気づけば信頼できる相手になっていた、という経験はないだろうか。深い会話をしたわけでもないのに、ただ何度も顔を合わせただけで、いつの間にか好感を抱くようになっている。
この現象を説明するのが、心理学者ロバート・ザイアンスが1968年の実験で明らかにした「単純接触効果(ザイアンス効果)」である。意味を持たない図形や見知らぬ人物の写真であっても、繰り返し目にする回数が増えるほど、それに対する好感度が高まることが確認された。中身のある交流かどうかに関わらず、接触の頻度そのものが好意を生み出すのである。
これを人脈に当てはめると、重要な示唆が見えてくる。相手を好きになってもらうために、毎回中身の濃い会話や印象的な出来事を用意する必要は、実はそれほどない。挨拶を交わす、軽く近況を伝える、そうした「軽い接触」を積み重ねること自体に、関係を温める効果があるということだ。
多くの人が陥りがちな思い込みは、これと正反対である。「連絡するからには、何か立派な用件や近況がなければ」と考えてしまい、連絡すべきタイミングを先延ばしにしているうちに、気づけば関係がすっかり冷え込んでしまう。しかし単純接触効果が示すのは、たまに起こる大きな出来事よりも、頻度の高い小さな接触の積み重ねのほうが、関係の温度を保つ上ではるかに効果的だということである。
もちろん、この効果には注意すべき条件もある。ザイアンス自身の研究でも、接触が不快な体験を伴う場合には、逆に嫌悪感が強まることが示されている。しつこすぎる連絡や、内容のない接触の乱発もまた逆効果になり得る。効果が働くのは、あくまで「不快感を伴わない、ほどよい頻度の接触」に限られるという点は押さえておきたい。
この仕組みは、紹介やビジネスの機会が生まれる場面にも直結する。誰かが「あの人にお願いしよう」と誰かを思い出す瞬間、選ばれるのは必ずしも客観的に最も優秀な人ではなく、最近ふと頭に浮かんだ人であることが多い。以前取り上げた「探される人になる」というビジビリティの話が実績や発信によって想起されやすさを高める話だったのに対し、単純接触効果が示すのは、単なる接触頻度そのものが記憶に残りやすさを左右するという、もう一つ別の経路である。
実践的には、「特別な用件がなければ連絡してはいけない」という思い込みを手放すことから始まる。近況の一言、相手に関係しそうな記事の共有、誕生日や昇進のお祝いなど、軽い接触の機会を意識的に増やしていく。
重要なのは、一回一回の接触の重厚さを競うのではなく、関係が完全に途切れてしまう前に、細く長く接触を続けることである。接触が途絶えて時間が経つほど、単純接触効果によって積み上げられた好感度も少しずつ薄れていってしまう。
大きな用件がなくても構わない。むしろ用件のなさこそが、気負わず関係を温め続けるための鍵になる。
「人脈の森」の「リマインド一括設定」機能は、今月末・翌月末・翌々月末の連絡タイミングをワンクリックで設定できる。次のコンタクトを逃さない仕組みを持つことが、接触頻度を保ち、関係を冷え込ませないための最も現実的な一歩になる。