会社には決算があります。一年の終わりに数字を棚卸しし、資産と負債を整理して、次の一年の計画を立てます。ところが人脈にはそうした「決算」の機会がほとんどありません。名刺は増え続けても、誰との関係が今どんな状態にあるのか、立ち止まって確認する人は多くないのが実情です。気づけば半年、一年があっという間に過ぎていた、という方も少なくないでしょう。まずは一年に一度だけでも、立ち止まる時間を作ってみることをおすすめします。
人脈の決算とは、難しいことではありません。この一年で会った人、連絡を取った人、紹介してくれた人、逆に紹介した人を思い出しながらリストにしてみる。それだけで、自分がどんな人に囲まれ、どんな関係を育ててきたかが、驚くほどはっきり見えてきます。紙一枚とペンさえあれば、今日からでも始められる作業であり、特別なツールや時間の確保も必要ありません。
棚卸しをすると、必ずと言っていいほど気づくことがあります。それは「一年前は頻繁に連絡していたのに、今はすっかり疎遠になっている人」の存在です。悪気はなくても、忙しさに紛れて水やりを忘れた関係が、思いのほか多いものです。名前を思い出した瞬間に、久しぶりに連絡してみようという気持ちが自然に湧いてくることもあり、それだけでも棚卸しをする価値があります。
逆に、たった一度しか会っていないのに、その後も何かとお世話になっている人もいるはずです。関係の価値は、会った回数だけでは測れません。棚卸しは、そうした「量では見えない価値」に光を当てる作業でもあります。数字に表れない関係の厚みを、あらためて意識するきっかけになり、感謝の気持ちを新たにする機会にもなります。
農耕型の人脈術では、種をまいたら終わりではなく、水をやり、育て、実った作物を大切に収穫することが重要だとお伝えしてきました。決算はまさに収穫の時期にあたります。一年間育ててきた関係の実りを確認せずに、次の種をまき続けるのは、収穫を忘れた畑を放置するようなものかもしれません。育てた分だけ、しっかり刈り取る意識を持ちたいところです。
棚卸しの際には、感謝の記録も一緒に振り返ってみてください。誰にどんな形で助けてもらったか、逆に誰の力になれたか。感謝は言葉にして初めて相手に伝わり、関係の中で循環していきます。棚卸しは、伝えそびれていた感謝を思い出す、貴重なきっかけにもなります。思い出したその日のうちに、一言だけでも伝えてみましょう。
また、紹介をしてくれた人、紹介を受けてくれた人についても振り返ってみましょう。紹介の貸し借りは、はっきり数字にしなくても、なんとなく心の中に残っているものです。それを一度可視化してみると、お礼を伝えそびれていた相手や、まだお返しできていない恩に気づくこともあります。気づいた恩は、少しずつでも返していく姿勢が信頼を積み重ねます。
決算の結果、偏りが見つかることもあるでしょう。特定の業界、特定の年代の人にばかり偏っていたり、与えてばかりで受け取ることに慣れていなかったり。偏りに気づくことは、決して悪いことではありません。次の一年の人脈づくりの方針を立てるための、貴重な材料になります。偏りを知ったうえで、あえて違う世界の人と出会う一歩を踏み出してみるのもよいでしょう。
年末や年度末など、決まったタイミングで棚卸しをする習慣をつけると、続けやすくなります。手帳やカレンダーに「人脈決算の日」として印をつけておくのもおすすめです。特別な準備は必要ありません。思い出しながら書き出すだけで、十分な効果が得られます。一年に一度のこの習慣が、翌年の人脈づくりの質を静かに底上げしてくれます。
人脈の森では、こうした棚卸しをサポートするために、今月・翌月・翌々月にアプローチすべき相手を一覧化する「アプローチ予定リスト」の機能をご用意しています。棚卸しで見えてきた「水やりを忘れていた関係」に、次の一手を打つための後押しとして、ぜひ活用してみてください。年に一度の決算から、次の一年の人脈づくりが始まります。